役目
これからという後輩が、
「もうやめたい。私には向いてないから。」と嘆いた。
「君はまだ始まってもいないのだから」
と大声で励まそうかと思ったが、それはやめた。
後輩にとって、初めて出会った壁はとてつもなく大きなものに見えているはずだ。
自分の存在を脅かすほど危機感を抱かせる壁。おそろしいだろう。
危機の迫った人に大声で話しかけても、
きっとそれは雑音でしかない。
揺れる後輩は、
「どうすればいいですか。答えを教えてください。」
と投げかけてくる。
すぐに
「それは自分で探せ。」と
突き放すことを思いついたが、
苦しくて助けを求める人に、切れ味鋭い言葉で返すことには違和感がある。
まして、強い挫折を経験した時のしのぎ方なんて、
言葉を重ねてくどくど聞かせたところで、
まさしく絵にかいた餅のようなものだから
後輩には全くありがたみのない時間だろう。
後輩にたくさんのことはしてやれない。
ひとつだけしたことは、
激しく心が揺れていることを認めてあげて、
今日の失敗を一緒に振りかえることだった。
何かを掴み取るための力は、後輩自身が持っている。
後輩に必要なものは、「答え」ではなくて「支え」だろう。
私にできることは、待つことくらいだ。
誰にでも、
危機は訪れる。
そのとき大切なのは、
自分の置かれた状況を受け止め、
自分の新しい在り方を探ることだ。
後輩のもがく姿にたくさん学ぶものがあった。
後輩が何かを見つけてきたら、
私はそれをしっかり受け止めようと思う。
それが待つ者の役目だ。