普段は気にもとめないが
しごと帰り、汗を流しに風呂へ寄る。
サウナに入り、しごとでかいた以上の汗を出す(たぶん体にはよくない)
風呂から上がりじっくり眺める。
赤丸のところにブヨが食らいついていた。
チクリと咬まれ、気づいてすぐに叩き潰したが
わずかの間にブヨの口から注ぎ込まれた何かしらの毒素で
ワタシの左手は薬指を中心に赤く腫れている。
とにかく痒い。おもいきり掻きむしりたいところだが、
傷を壊して汁が出てくるのは嫌なので我慢している。非常にもどかしい。
軟膏を塗ってみるが気休めでしかない。
こっちは、
無傷の右手。
左手で起きている腫れぼったい惨事が嘘のよう。
右手に耳を当てると「おい左手、お前かわいそうだな」と話していた。
さながら対岸の火事見物といったところか。
大事な相方が惨事に見舞われているというのに、脳天気なやつだ。
ワタシの左手は、
羽虫に毒素を注がれた瞬間から戦闘状態に突入している。
ふだんは大人しくしている防衛隊が、敵の侵入を許した左手に続々集結し
激しく交戦しているのである。
真っ赤に腫れた左手の甲は、はげしい攻防が繰り広げられている戦場そのものだ。
ふだんワタシは、
自らの体に備えられた防衛隊と直接交信することはないし、
まして「敵と戦え」などと命令を与えることもない。
優秀な防衛隊は、なんの命令を受けないにも関わらず、
いち早く敵の侵入を察知して各個で任務を果たしている。。
ワタシの体は戦っている。
「自分」の全く知らないところで、
ワタシの知らないそれぞれのワタシが活動している。
まるで小さな生き物の寄り集まりのように思えてくる左手。
ワタシは唯々その様子を見守っている。。
普段は気にもとめないが、
腫れた左手を見ると考えてしまう。
そもそも、この手はワタシのものなのかと。