きょとんとした顔で
この春に入った若い後輩が
しごと終わりにぽつぽつと話しはじめました。
「私は、周りの人のようにうまく話せないんです。」
何を言いたいんだろうかと、もう少し丁寧に話してくれるようにお願いすると、
「学生の時から、私は自分の思ったことがちゃんと言葉にできないんです。緊張しいの、あがり症というか、人の前でうまく自分が出せません。。」
ほほう、これは、ずいぶん内向きなことを言っているぞ、ということがわかりました。
さらに続きを聞いてみると、
「Tさんや○○さん(他の先輩)みたいに、人前でぺらぺらと話せる人に出会うと羨ましいんです。」
おい、言葉を選ばんか。。いやいや、ここはぐっとこらえて、
もう少し聞いてみます。
「気おくれするというか、ちゃんと自分のことを言えない。だから周りの人に比べて自分は芯のない弱い人間なんだと思います。」
こんなことを暗い顔をしてゆっくり吐き出します。。
そのまま聞いてもアレなんで、この後輩の趣味を聞いてみました。
「こどものときから書道をやっています。兄弟みんなやってましたから。」
へー、そうなんだ。段とか持ってるんでしょ?
「はい、今は『準師範』です。」
段じゃないんだ。よくわからないけど、これはすごいことなんだろうな。
「『師範』の試験を受けたんですけど、この前はダメだったんで、また受けようと思ってます。」
こんど、キミの書いた『書』をみせてくれない?
「恥ずかしいですね。実家に置いてるやつで一番よくかけたのでいいですか。」
それでいいよ。
後輩に少し笑顔が戻りました。
ていうか、答えはもう出ているなあ、と思いました。
この後輩は決して自分で思うような「芯のない弱い人間」ではないんだと。。
自分の中のうまくいかない一面だけを切り取って自己評価しちゃうから
今の自分に自信を持てないのかもしれないけれど、
キミの思ってる「弱み」って、実は「強み」でもあるんじゃないか?
そんなことを伝えてみました。
後輩は、きょとんとした顔で、聞いたことを解釈しようとしています。。
あ、通じてない。。
うまく言葉にできない「弱み」があるから、書に向きあえる「強み」が生まれてるんじゃないの?
まだ、きょとん顔がとれないぞ。。
ワタシには、キミが弱い人間に見えない。なぜなら、キミの中には言葉にできないけれど、湧き立つような強い思いがあるのだろうと感じるから。
うまく話せず思い通りにいかないと感じるのは、キミの熱い中身と、それを外に出そうとしたときのカタチにギャップを感じているからだろう?
その差は、そのまま、あなたの「強さ」の表れといえないだろうか?
書に向き合うという行動にあなたの「強さ」が表れているように、
キミのしごとぶりを見ていると、言葉にならないものを行動で補おうとしている。
お客さんには、そういう誠実さがちゃんと伝わっているはず。。
そして何より、自分の弱みを自覚して、ワタシに話すという行動がとれてるのは
きちんと自分を出せてるということにほかならない思うんだけどなあ。。
キミは弱くない。自分の強さに気づいていないだけ。
周りの人はあなたの良さにちゃんと気づいているよ。
少なくともワタシはそのひとり。
そういう思いはそのうち言葉になる。それまで待ちますよ。
少しずつでいいんだと思います。
後輩は照れくさそうに笑いました。
そしてそのまま笑顔で帰ってもらうことができました。
ワタシも
帰ってからのビールを
いつもより美味しく感じました。。
あ、いや、これはほんとに美味しいビールです。