是利己の壁

人との関わりのなかで生きていれば

ひとりでは達成できないミッションが与えられ、

他者との協力が必要になる場面にいくつも遭遇します。

そんなことはないという方、ごめんなさい。。あなたには無用な話です。


いろんなタイプの人がいて

他者との協力にためらいなく自分を投入できる人、

周りの出方をうかがいながら自分のスタンスを決めていく人、

ぎりぎりまで参加しないでおいしいところだけ持っていく人、

他にも複雑なパターンが様々あって、人それぞれです。

あなたはどんなタイプでしょうか。


それぞれに自覚されたミッション達成という目標は一致しているものの、

そこに至るまでのプロセスや、必要な時間は千差万別、人それぞれに違います。

チームでミッションに取り組むとき、

それぞれの能力を全開まで引き出すことができれば、

大概の目標はすんなり達成できてしまうでしょう。

もしそれができたら、野球とかサッカーとか、全チーム優勝できちゃうはずですが、

そうはならないところに、おもしろみがあると感じます。


それぞれの力をどれだけバランスよく引き出せるかで、チームの良し悪しが決まります。

バランスを保つ、そこの匙加減を任されるのがチームリーダーの役割なんでしょうけれども、

ある程度オトナになってくると、妙に「計算」のきれるヤツもでてくるので、

そんな変数が作用するとチーム経営はますます複雑化していきます。


そんなかけ引きがあるのをわかっていれば、リーダー役を買って出る人は当然少なくなります。

そうですよね、わざわざ大変だとわかってる役を、自ら引き受けたいという人は

いまどき稀有な存在です。


人からとやかく言われたくない、だから人には何も言わない。

自由でいたい、だから人の自由を制するような存在になるのは避けたい。。

チームで動いていると、

そんなかけ引きをたくさん目にします。


全員が奉仕の心をもって臨むチーム経営というのが理想的ですが、

現実的には、各々の利己的な面を見合いながら、しがらみに縛られつつ、チームは動いています。


良し悪しは別として、いろんな人のあり方を見ることができるのはおもしろいことですが、

それはチームを他から俯瞰できる立場にいればの話。。

当事者になってしまうと、そんな呑気なことは言ってられません。


当事者は、複雑に入り組んだ「是利己の壁」の狭間を右往左往しながら、

時にはよじ登ったり、跳ね返されたり、勢い余って「落書き」なんてイタズラもしながら(ホントに落書きしちゃダメよ)

とにかく前へ進むしかないのだから大変です。。


肝心なことは

壁をなくしたり、乗り越えたりすることではなくて、

まず壁の存在をよく知ることじゃないでしょうか。

壁の高さや厚さ、においや温度、硬さや材質、そういったものを五感、六感をめぐらせて感じる。

見たことも触れたこともない壁に、いきなり取りつくのはやはり怖いですし、

むやみなことしちゃうと返り討ちにあっちゃいます。。

少しずつ様子をみながら近づいて、怪我をしないように観察してみる。

なんとも、まどろっこしい、骨の折れる作業です。



しんどい言い方をすれば、

最初は「あいつのここが悪い、あいつのここがダメ」なんて

愚痴でもこぼしながら、ため息も漏らしながら、壁の存在というやつを嫌というほど味わう。

そんなエグい味を散々味わったあとに、

やっと自分と人との違いやズレというものが見えてくる。

人との違いというやつは、ある種の痛みとともに受け入れるものだという気がします。


痛いのは誰でも避けたい、でも、避けては通れないときもある。

向き合うからこそ、自分の弱みに気づかせてもらえるだろうし、

そうすることではじめて、自分では気づけない自己の性質について深い洞察が可能になる。


世の中には、

「不器用」だとか、「鈍感」だとか、「天然」だとか、そもそも、こんなめんどくさい経路に乗らずに、

問題をうまくかわしてしまう特殊な性質を備えた人もあるんだけど、

そういう人も含めて、多くの人はしがらみの中で動きつづけている。。


チームの経営というのは、それぞれに莫大な労力が求められるけれど、

故に、チームで何かを達成できたときの喜びは

ひとりでこつこつやったときのものとは、また違う味わいがあるものです。

たとえ失敗に終わったとしても、結束して事に臨もうとしたプロセスが与えてくれる学びは

何にも代えがたい価値を帯びているはずです。

夏に見た高校野球で心を振るわされたのは、そんな部分が伝わってきたからかも知れません。



いやはや、リーダーという役割を背負う(もしくは背負わされる)人の苦労はいかばかりでしょうか。。

引き受けてくれる人、もうそういう人はさ、絶対にね、倍々ゲームで「徳」が上がると思います。

そんな方々は、くれぐれもご自愛くださいませ。