ボウルの水

8月27日(水) JOKE


「一代で財を成した男。

誰でも思いつきそうなアイデアを基にいざ商売を始めてみると

これが意外と世間に受けてあっという間に軌道に乗って進み始めた。

明けても暮れても仕事、しごと。

とはいえ、男はしごとが嫌でない。

多忙さに喜びを感じ、ひたすらしごとに明け暮れた。

財を成した男は、商売仲間と酒を飲みながらこう言う。

お前たちには教養が足りない。俺のように儲けたいなら、もっと勉強することだ。

男の手腕は、こと商売に関してすばらしいものだった。




この男の評判を聴きつけた富豪がいた。

富豪は代々続く稼業を守り続ける静かな男。

一代で莫大な財を築きあげたこの男と

酒でも飲みながら語りあってみたいと望んだ。



富豪は自分の主催する美食クラブにこの男を招いた。

美食クラブのメンバーは、いずれも家柄のよい名士揃い。

男にとっては不慣れな会であったものの、

名士の集いに招待された自分を誇りに思い、こころよく招待を受け入れた。



食事会がはじまると

最初にメイドが運んできたのは

水の満たされた小さなボウルに、レモンの輪切りが浮いたものだった。

男は困った。

さて、どうしたものか。

これまで出席したどの食事会でも、

こんなものが運ばれてきた記憶はない。

男は戸惑い、しばらくボウルを眺めた。

同席した名士たちは、男の所作を興味深げにながめている。


困った男は、ボウルを手に取り、その水を飲み干した。

すると、周りの名士たちは、男の様子を見てくすくす笑い始めた。

そして男に視線をやりながら、ひそひそ話をはじめる。

男の耳や頬は、みるみるうちに赤くなる。


そうこうするうちに、名士たちの手元にも、同じボウルが配られた。

男がじっと名士たちの所作を見つめていると

彼らはボウルの水に手を入れて洗い始めた。


男は気づいた。

飲むための水でなく、手洗いのためのものだった。

男は顔を真っ赤に染め、ひたすら黙ってうつむいた。

とてもではないが、顔など上げていられない。

手洗いを終えた名士たちの笑い声は徐々に大きくなっていく。



主催である富豪の席にも、同じく水の入ったボウルが届けられた。

この様子を黙って見ていた富豪は

水の入ったボウルを手のひらで包むと

ぐっと持ち上げ、その水を飲み始めた。


富豪のとった行動を

名士たちは瞬きもせずに見ていた。

富豪が水を飲み干すと、笑い声やひそひそ話は聞こえなくなった。

男はうつむくのをやめ、やっと顔をあげることができた。


富豪が飲み干したボウルを置くと、

静まりかえった名士たちは、各々ボウルを手に取って黙って水を飲み干した。


静かな食事会は、

そのまま何事もなかったように進んでいった。」
















さて、

イメージ 1


夕飯はなにができるかな。。














「教養とは、もっぱら人に恥をかかせないための道具である」

今日はそんな言葉をいただきました。