次のひと息
短いエピソードの紹介です。
まだ夜も明けきらない薄暗いころに、
「背中をさすってください。」
「楽しいことばかり思い出します。私はしあわせでした。」
「一番はっきり思い出すのは、あいつと一緒になったときのこと。周りの反対を押し切ったあのときの私は間違ってなかった。」
「妻と子どもたちに、こころから感謝しています。ありがとうと伝えたい。」
「世話をかけた人たちみんなにも、ただありがとうと言いたい。」
「そしてあなたにも…。ありがとう。」
大きく腫れた手で、私の手を強く握りしめ、
今にも泣きそうな顔で、彼は静かに語りました。
誰かは誰かに支えられて生きている。
たとえ先の見えない暗闇に進まなければならないとしても、
誰かの支えがありさえすれば、次のひと息を吸い込むことができる。
そして静かに進むことができる。